― 宮藤家 朝 ―
愛華
「あー、今日は放課後どうしよっかな?」
恋華
「ああ、ルルんトコは今日開けないって昨日メルが言ってたな。仕事だっ
て言ってたが……」
愛華
「大口が入ったってルルティアが大喜びしてたわね。ルルティアが仕事熱
心な所なんて始めて見たわ」
恋華
「……そうでもないと思うぜ。後で私達も出番があるから用意しておいて
くれって言ってたが」
愛華
「ルルが? なんで探偵業にあたし達が付き合うわけ?」
恋華
「おいおい姉貴。探偵業ならルルが喜ぶ訳ないだろ。今回の仕事は”本業”
絡みらしいぜ」
愛華
「”本業”絡み……?」
恋華
「つまり、出るってコトだ。」
愛華
「何が?」
恋華
「……姉貴に行間を読ませようとした私がバカだったぜ。だから、出るん
だよ。」
……”奴等”がな。
― 某県某所 貸しビル5F 昼 ―ルルティア
「メル、確認は取れたか?」
ルルティア
「よし、踏み込むぞ。仕込みは任せる」
メルティア
「了解」
貸しビルのガラス扉に手をかけてルルティアが押し入る。扉の正面には
つい立があり、ここからでは奥の様子はうかがえない。来訪者に反応し
てか、若い男が歩み寄ってきた。
若い男
「いらっしゃいませ。当社に何か御用ですか?」
丁寧な言葉で取り繕っているがルルティアを見下し、威圧的に追い払お
うとしている事がルルティアには一目で分かる。
ルルティア
「私はこういう者だ」
ルルティアは懐から一枚の名詞を取り出し、男に突きつけた。
若い男
「私設弁護士 佐川縷々? 当社に何か御用でしょうか?」
弁護士、という肩書きに懐疑的ながらも僅かに反応を見せた男。しかし
それを見ても男は威圧的な態度を崩さず同じ言葉を繰り返す。
ルルティア
「御社の業務は貸し金融で間違いありませんね?」
若い男
「確かに金融も取り扱っております」
ルルティア
「瀬名康彦様の件で伺いました。御社は法的に不正な金利で法外な金額
を巻き上げていると瀬名様からの相談を受けまして」
若い男は露骨に威圧を始めた。どうやらこの手の事には慣れているよう
だ。
一方のこちらには法的な知識など欠片も無い。出した名前こそ本物の依
頼者の名前だったがそもそもルルティアは弁護士でも探偵でもない。
だが、時間稼ぎのハッタリは寧ろ得意分野と言える。ルルティアは次か
ら次へとそれっぽい単語を適当につなぎ合わせ獲物が掛かるのを待った。
コン、と軽く壁を叩く音。それはメルティアの仕込が終わった合図。そ
れを聞いたルルティアはハッタリを挑発へと切り替える。
ルルティア
「とにかく、御社が不正な金利で越後屋がうはうはなのは桜吹雪が黙っ
ていないという訳である」
若い男
「……訳の判らない事をごちゃごちゃ言ってるんじゃねぇ! こっちは
ガキの遊びに付き合うほど暇じゃねぇんだよ! ぶっ殺すぞ!」
おお掛かった掛かった。単純単純……ルルティアは心の中で呟く。
ルルティア
「その言葉、宣戦布告と受け取った。当方に迎撃の用意アリ」
ルルティアが、ニヤリと嗤った。次の瞬間、重い踏み込みと共に拳を若
い男の胸に叩き込む!
若い男
「なっ!?」
若い男は、自分が確かに宙を飛んでいる事さえ理解できずにブラックア
ウトした。
ルルティアの拳は、成人男性一人をボールのように弾き飛ばし、ついた
てを薙ぎ倒してさらに数個の机と椅子を巻き込んだ。
突然の出来事に無数の電話機が並ぶオフィスが騒然とする前に、仕掛け
が発動した。
ぱん、と軽い音がした。それも立て続けに何回も。だがこの音はある特
定の音を聞いたことがある者にはある物を連想させる音だった。
特定の物とは勿論、拳銃の発砲音である。
ルルティア
「Shall We Dance?」
ルルティアは騒然とするオフィスに飛び込み、手近に居た男の腕を掴ん
で振り回した。
踊る、と言うよりはまるで武器のように。
ルルティア
「アハハハハハ! もう終わりとはつれない奴だ!」
男の関節が外れた事を腕越しに確認すると掴んだ腕をあっさりと放し、
別の倒れている男の片足を掴んだ。
ルルティア
「さあ、お前は何秒踊れるかな!?」
ルルティア
「なんだ、つまらん」
掴んだ片足を振り回しかけて、離した。男は顔面で床を雑巾掛けする事
になったがルルティアには関係ない。
メルティア
「迅速に行きましょう。駆けつけてこられてはさらに面倒です」
ルルティア
「判っておるわい。妾が書類を捜すから分別宜しく」
メルティア
「了解」
ルルティアは種類の入っていそうな所をこじ開けて、中の書類をメル
ティアに渡す。メルティアは座ってそれを仕分けする。
まるで洗濯物を取り込む夫と畳む妻のような構図になっているのだが取
り込んでいるのは所謂ヤミ金業者の得物リストなどで、畳んでいるのは
その中から元締めを割り出せそうな書類である。
ルルティア
「ここはこの程度じゃな。そっちの首尾は?」
メルティア
「後、二件程梯子すれば正確な情報が得られるかと」
ルルティア
「やれやれ、現代社会とは角も面倒な物よのう……」
― とある高級住宅街 夜 ―
愛華
「それで、私達はこんな所で何をするの?」
恋華
「おいおい、何するのってちょっと考えればわかるだろ」
愛華
「うーん……判らないわ!」
愛華
「姉貴に普通の思考を期待した私が悪かったぜ。つまり、だ。
いまから、この近くに”奴等”が現れるって事だよ」
そんな話をしている二人に、黒白の二つの影が向かってきた。恋華
「よう、ルルティア」
恋華
「この屋敷か?」
愛華
「うわ、すごくでっかいお屋敷よ!」
愛華
「ここで何するの? バーベキュー? 花火?」
恋華
「……やりたかったら後でやってくれ」
メルティア
「あちらに入り口があります」
メルティアが指を刺した方には、確かに入り口があった。だが、そこは
愛華
「ねぇ、もしかしてこの家って」
恋華
「今更気づいたのか姉貴。そうだよ、このお屋敷は要するにその筋の」
愛華
「すっごい金持ち?」
恋華
「……ヤクザだ」
愛華
「え、マジ? それやばくない?」
恋華
「やばいとも。所詮一般人、イグニッションすればとりあえずどうとで
もなるが後が色々とマズいぜ」
ルルティア
「心配するな、一般人の相手は我々がする。お前たちは20分後に玄関
から堂々と入ってくればいい」
メルティア
「その前に一般人の方々は私達で鎮圧しておきます」
恋華
「OK、その辺は信用してるぜ」
愛華
「討ち入り? 討ち入りなの?」
恋華
「OK、互いの健闘を祈るぜ」
そして、少女たちの影は三つに分かれた。
ルルティア
「では……推して参るぞ」
ずしん、と一撃。さらに二、三発蹴りを入れると巨大な門に見合った
巨大な閂も悲鳴を上げてその留め金も歪む。
ばきん、と次の一撃で巨大な門はその口をこじ開けられた。ちなみに、
通常人が出入りする為の小さめの扉もあったのだが無視したようである。
言われるまでも無く、閂をヤクザキックでへし折った怪力少女に刃物を
手にした男が次々と罵声を浴びせながら向かってきた。
ルルティア
「さて、ウォーミングアップ位はこなして貰おうか?」
ルルティアは背中からするりと、まるで手品のように銀色に輝く鋼鉄の
大鎌を抜き放った。
メルティア
(師匠の方はずいぶんと派手にはじめたようですね)
一方、壁を飛び越えて進入したメルティアは足音を殺して廊下を歩く。
メルティア
(三時方向、反応五)
そのまま静かに、右前方にあったふすまに指を突っ込む。
メルティア
(Shoot)
傍目には一体何をしているか判らないが少女の指先からは肉眼では見え
ない超小型の機械……ナノマシンを飛ばして室内に居た五人を一度に昏
倒させた。
足音にすばやく反応した少女はそちらにも同じナノマシンを飛ばす。そ
して、少女を視界に入れる前に走ってきた不運な男は意識を失った。
メルティア
(問題無し)
少女は静かに、確実に任務を遂行する。
ルルティアは大鎌の柄で数人の男を一片に薙ぎ倒した。
ルルティア
「ふははは、どうした! お前達の任侠魂はその程度か?」
チンピラA
「この糞ガキがッ!」
ルルティア
「そぉいッ!」
キレた若い男が拳銃を発砲しようとして、その前に薙ぎ倒される。
ルルティア
「この状況で銃を使えば味方に確率の方が高いくらい理解できんのかの
う……?」
チンピラB
「舐めんな糞ガキがッ!」
一度に数人の男がルルティアを取り囲んだ。
チンピラC
「ガキに舐められたまんまじゃ俺達の面子がたたねぇんだよッ!」
ルルティア
「成程、鉄砲玉の命より面子の方が大切か。意外と考えているのじゃな」
チンピラB
「舐めやがってこの糞ガキが……!」
数発の発砲音が夜空に響いた。
恋華
「おー、随分派手にやらかしてやがるな……どうした、姉貴」
愛華
「うー、ちょっと楽しそうね」
恋華
「おいおい、姉貴。極道でも一応一般人相手にしてるんだぜ? イグ
ニッションする訳にもいかないし」
その時、炸裂音が二人の所へもたどり着いた。
恋華
「おいおい、今の銃声!?」
愛華
「みたいね」
恋華
「こんな時までボケてるんじゃねぇぞ姉貴! あいつ等はイグニッショ
ンしてないんだぜ!?」
愛華
「ええ、してないわよ?」
恋華
「じゃあ拳銃なんか持ち出されたらただ事じゃ済まないぜ! 今すぐ助
けに」
愛華
「ちょっと恋華。さっき討ち入りは20分後って言ってたでしょ? そ
れに一般人相手にイグニッションしちゃだめよ?」
恋華
「ッ!?」
恋華は、この姉が何を考えているか理解できなかった。バカだとは思っ
てたがこの状況も理解出来ないほどだったのか?
愛華
「大丈夫よ恋華」
だが、それは間違いだった。状況を理解できていないのは愛華ではなく
恋華の方だ。
愛華
「ほら、まだ続いてるでしょ? だから大丈夫」
恋華
「……っち、そういう事かよ」
そう、愛華の言う通りまだ争い合う音は続いている。それは逆にルル
ティアが健在であると言う事だ。
愛華
「あの二人はイグニッションしてなくてもそこそこ強いんだから。あー、
羨ましいわね」
恋華
「そこそこ強い、ってレベルじゃねぇだろ……」
恋華は脱力してその部分だけ突っ込んだ。
チンピラB
「が……」
ルルティア
「当らなければどうと言う事は無いのじゃよ……最も、お前らでは我が
影を掴まされている事にすら気付かんだろうが」
どさり、と。最後の男が崩れ落ちた。ほぼ同時に白い影が現れる。
メルティア
「師匠、お疲れ様でした」
ルルティア
「うむ、ではボス戦へと赴こうか」
その男は、ただ力が欲しかった。
男は、子供の頃から目立たない方で、体力に優れているとも言えない弱
者であった。
そして子供とは、弱者を容赦なく排斥しようとする。無邪気、とも言え
る無慈悲さで。
まだ子供であった男はただ耐えるしかなかった。それと同時に思い知ら
されたのだ。
この世界は、弱者を容赦なく排斥するようにできていると言う事に。
そんな男が”力”を得たのは、ちょっとしたきっかけに過ぎなかった。
刃物は、男にいとも簡単に力を与えた。そして、愚かではなかった男は
器用に立ち回り強者となった。
刃物の次は法律が男に力を与えた。陰に潜み、網をくぐって男は金とい
うさらに大きな力を手に入れた。
もちろん挫折しそうになった事もあった。捕らわれた事もあったし、命
を落としてもおかしくない事もあった。
だが、弱者に戻ることを恐れた男は我武者羅に力を求め、求め続けた。
気がつけば、男の周りには力が満ち溢れていた。
望めば望むだけの力を男は手に入れる事ができるようになった。
だが、いつからだろうか。
どれだけ大きな力を手にしても、まだ足りない、足りないと何かが叫ぶ
のだ。
男は力を求めた。ただ求め続けた。
その部屋は、圧倒的な程の死臭に満ちていた。
屋敷の奥、そこに目標は居た。
ルルティア
「一応、聞いておこう……貴様は、これまで何人の命を喰らった?」
男は、ニタリと嗤って答えた。
男
「食った飯の数など、覚えている訳がなかろうよ」
二人は、懐から素早くカードを抜き放って叫んだ!
雷鳴のような閃光が二人の少女を包み、弾けた。服装こそ余り変わりは
無いがその手には異形の武器が握られていた。
ルルティアは先の戦いで使った大鎌とさほど違いは見られない。だが、
柄の先に唸りを挙げて回転する物体がある。
メルティアの方はほぼ右肘から下がその武器に埋め込まれていた。
旋回式機関銃(ガトリングガン)。少女とは不釣合いな巨大な機械の銃
口が、圧倒するように突きつけられる。
恋華
「おいおい、時間までまだ二分半あるぜ?」
愛華
「さては私達の出番を潰す気だったわね!」
振り返るまでもなく、褐色の肌に銀色の髪を持つ姉妹がそこに立っていた。
恋華・愛華
「「イグニッションッ!!」」
同じように閃光が二人の少女を包み、弾ける。
恋華は全身を覆うようなロングコートと指の部分が開いているレザーグ
ローブ。その脇に、長剣と曲刀が浮いている。
愛華は床まで着きそうな長さの擦り切れた赤いマフラーにインラインス
ケートと逆手に構えられた二本のナイフ。
男
「それが、お前達の力か?」
男は、不適に微笑む。気付けば男の体は元の数倍のサイズに膨れ上がっ
ていた。
この男は既に人間ではなかった。何時からかは判らない。だが、社会的
力と異形としての力の両方を揃えた男に敵は居なかった。不運にも彼に
近づいた者は文字通り喰われるか、目を背けて手下として食料をこの男
に届けるのみであった。
ルルティア
「そうとも」
少女もまた、口の端を緩める。
この男の命運はこの少女の出現によって今、尽きる事になる。
ルルティア
「役は揃った。ショウダウンだッ!!」
四人の少女が散開し、男に襲い掛かる!
愛華
「インフィニティ・オン! 人狼術式展開!」
愛華がクラウチングスタートの姿勢で構える。
愛華
「マニューバセットッ! 初っ端からフルスピード、フルパワーで往く
わよッ!!」
ルルティア
「なら、一口乗らせて貰おうか」
愛華が弾けると同時に、ルルティアも地を蹴った。
愛華
「どっかーーーんッ!!」
最初に仕掛けたのは愛華。三日月を描く様に放たれたサマーソルトは男
の右腕を切り裂く。
ルルティア
「併せ、命糾斬魔刃ッ!!」
立て続けに切り込んだルルティアの漆黒の闘気が右腕に食い込む。
男
「小賢しいッ!」
愛華
「うそ、まともに入ったのに!」
恋華
「だが、ガードは空いたぜッ!」
メルティア
「その隙は逃せませんッ!」
黄金の光に包まれた二本の件と、白銀の闘気を帯びた無数の弾丸がその
胸へ叩き込まれる。
男
「むぅん」
男は、数歩後ずさったが、
男
「小娘がぁッ!!」
左腕で空中のルルティアを打ち抜いた。直撃を受けたルルティアは壁ま
で飛ばされた。
メルティア
「師匠!?」
ルルティア
「む、問題ない。だが今の一斉攻撃で落とせないとはな……空中で身動
きが取れなかった妾を狙ってくる辺り判断力もいい」
問題ない、と答えた通りルルティアはすぐに体勢を立て直した。
恋華
「なに、それなりに通ってるぜ。少なくとももう右手は使い物にならねぇ」
愛華
「私の直撃が入ったんだからそのくらいは当然よ!」
男
「もう勝った気か? 格の違いを教えてやる!」
男は左手で転がっていた頭蓋骨を掴み、投げた。それは砲弾のような速
度でメルティアに迫る。
メルティア
「Butterfly、狭域展開」
メルティアの広げた掌の先に、バリアのように白いパネルが張り巡らさ
れる。しかし、砲弾はその勢いをややそがれはした物の伸ばしたメル
ティアの左手を弾き飛ばした。
メルティア
「っ――損傷軽微」
ルルティア
「よし、奴が二投目を投げた時、一気に積むぞ」
メルティア
「了解」
恋華
「おっけーだ。姉貴、こっちも併せるぜ」
ルルティアは大鎌を両手で構える。そのフォームはまるで野球のバット
のようだ。
男
「はっ、イチローにでもなったつもりか!」
ルルティア
「レーザービームで地球を滅ぼしたりはできんが、お前を倒すくらいは
容易い」
男
「抜かしたな小娘。ならば受け取れぇいッ!」
男が頭蓋骨を鷲掴み、第二投を放った。
ルルティア
「後殲断衝……」
ルルティア足元からグレーの闘気が舞い上がる。すると、滑るようにそ
の体が半歩ほどずれる。
男
「な……に!?」
そう、そこは正しくストライクゾーン。男は最高にいい球をルルティア
に投げてしまった。
ルルティア
「滅牙ッ!!」
だがルルティアは球を打ち返さなかった。それどころか球の勢いを受け
入れるように回転する。
ルルティア
「絶・衝・壁ッ!!」
爆音と共に床を切り裂きながら、自身の投球のエネルギーに上乗せされ
て放たれたルルティアの斬激が男に襲い掛かる。
一瞬、男はそれを避けようとした。それは可能だったかもしれなかった。
だが、すべてはもう手遅れだった。
メルティア
「TBF、AWAKEッ!!」
男の四方八方の壁が突然、弾丸となって襲い掛かった!
さらに恋華と愛華がいつの間にか背後に回りこんでいるッ!
男
「こ、こんな馬鹿なッ!?」
ルルティアの斬激、メルティアの弾幕、恋華の光の剣、愛華のドロップ
キック。その全てが同時に――
ルルティア
「全ては妾の挑発に乗ったその瞬間に決まっていたのだ……貴様の負け
じゃ」
男の存在は、この世界から消滅した。男の喰らった何百もの魂と共に。
恋華
「なあ、ほっといていいのか?」
ルルティア
「ああ、後始末は銀誓館に任せてある」
恋華
「おいおい、それじゃお前が大暴れしたのもバレるんじゃないか?」
ルルティアは軽く嗤って答えた。
恋華
「じゃあ、この件のクライアントってもしかして」
ルルティア
「無論、銀誓館じゃ」
恋華
「なんだよ……それじゃいつもの依頼と大差無いじゃないか」
愛華
「恋華はそれが不満?」
唐突に口をはさまれ、恋華は少し驚きながら言った。
恋華
「いや、そういう訳じゃないけどさ」
愛華
「じゃあいいじゃない! 私達はいつも通りゴースト退治をしただけよ」恋華
「うん? まあ、そうだな」
意外だったのは今回の件について愛華が何の疑問も持っていない事だ。
恋華
「……いや、やっぱ普通じゃねぇだろ。ヤクザの家に押し入ってるんだ
ぜ」
愛華
「その辺はルルティアがやった事でしょ? 私達には関係なし!」
恋華
「まあ、私達は関係ないけどさ。ルルティアはマズいんじゃねぇか?」
話を振られたルルティアは何のためらいも無く答えた。
ルルティア
「無論、何の問題も無い」
― 後日 ―
中年男性
「いやまったく、お穣ちゃんには驚かされてばかりだ」
ルルティア
「何、妾は少々手を貸しただけじゃ」
ルルティアの向かいに座った中年男性はタバコを吹かしながら笑った。
中年男性
「はっはっは。うちのせがれの一人でもくれてやりたい位だ!」
ルルティア
「悪いがそれは断る。自分の男は自分で見つけるのでな」
中年男性
「だろうな。お穣ちゃんはそういうタイプだ」
男はタバコを灰皿に押し付け、新しい一本に火をつけた。
中年男性
「しかしいいのか? シマ一つ取ったんだ。桁一個増やしたっておかし
くないぞ」
ルルティア
「何、貧乏探偵社があんまり金を持つのは困る。それに、こういう仕事
ばっかリ受けてると本家がいい顔をしないだろうしな」
中年男性
「あくまで銀誓館のエージェントって訳かい」
ルルティア
「左様。今回はたまたま互いの利益が一致しただけじゃ」
中年男性
「そうかい、じゃあそういう事にしておいた方がよさそうだな」
中年男性
「はっはっはっは。全く恐ろしいお穣ちゃんだ」
ルルティア
「では、この辺で失礼する。またのご依頼をお待ちしているぞ」
ルルティアは扉を閉めて立ち去った。
中年男性
「まったく、そっちから押しかけておいてまたの依頼をお待ちしますか。
いい根性してやがる」
若い男
「若、なんだったんですかい? 今のガキは」
中年男性
「自称、正義の味方だそうだ」
若い男
「何だってそんな奴が?」
中年男性
「オラ、口動かしてる暇はねぇぞ! シマが増えたんだ、暫く忙しくな
るからな!」
若い男
「へい、若!」
恋華
「おいおい、すっげーモン見ちまったぜ」
愛華
「銀誓館とヤクザの癒着……スキャンダルね」
ルルティア
「こらお前ら、こんな所うろついておったら危ないじゃろうが」
恋華
「うわ、何時の間に後ろに!?」
ルルティア
「まったく、余計な事は気にするなといったのにのう」
恋華
「おい、まさか私たちを……」
愛華
「コンクリートで日本海?」
ルルティア
「アホか」
恋華
「いや、実際どうなんだよ。ゴースト退治でヤクザから金貰っちゃマズ
いだろどう考えても」
ルルティア
「さて何のことやら……妾はこの界隈で麻薬取引及び人身売買しとった
組織を一つ潰しただけじゃぞ」
恋華
「……人身売買?」
ルルティア
「あのボスがなんだったか、もう忘れた訳ではあるまい?」
恋華
「リビングデット……ああ、そういう事か」
ルルティア
「そう、奴は麻薬で餌を釣り、掛かった奴を喰らっていたリビングデッ
トだった訳じゃ。だが、いくら銀誓館でもヤクザに討ち入りはマズい」
ルルティア
「そこで我々……まあ、正確確実に相手を12時間眠らせるメルティア
のナノマシン技術が呼ばれたという訳じゃな」
恋華
「お前、ただ暴れただけだしな。あれじゃイグニッションしててもして
無くても関係なかったじゃねぇか」
ルルティア
「詠唱兵器は使っとらんぞ。世界決壊への影響は抑え目じゃ。それに妾
はここの組との交渉役もやってるしな」
恋華
「この界隈を陣取ってたゴーストの組が居なくなった後にまた悪質なヤ
クザが住み着く前に比較的マシな所に話を持っていった訳か」
ルルティア
「ま、そういう事じゃ。薬はあつかっとらんし空席にしておくのも無責
任という物。適当な後釜を用意しておいた訳じゃな」
ルルティア
「ついでに言えばあの夜、屋敷周辺の人払いをしてくれたのもこの組の
連中じゃ。銀誓館が立ち入る前の後始末をしてくれたのもな」
恋華
「通りでな……納得がいったぜ。なあ姉貴」
愛華
「いや、私はルルティアが事前に何かしたんだろうなーって」
恋華
「……もしかして私だけか? ルルティアの心配してやったのは」
恋華
「っち……何かおごれよな!」
ルルティア
「よかろう、今日の妾は太っ腹である!」
メルティア
「師匠」
ルルティア
「うわびっくりした。お前何時から妾の背後を取れるようになった?」
メルティア
「鍛えられてますから。それよりも臨時収入についてのお話があります」
恋華
「まあ、そんな事だろうと思ったぜ……」
愛華
「こうして、一つの事件の幕は下りた。しかし、これは後の惨劇へのエ
ピローグにすぎなかったのだッ!!」
恋華
「姉貴……適当な言葉で閉めようとするな。しかもエピローグじゃなく
てプロローグだ。エピローグじゃ終わっちまう」
愛華
「じゃあまた明日!」
恋華
「そこですかさず閉めるのかッ!」
恋華
「いや、そういう問題じゃないだろ」
愛華
「また明日!!」
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